ジョルジュ・ネラン神父の非公式サイト

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『生きた信仰を教えてくれる』
(ネラン神父来日三十五周年&
『おバカさんの自叙伝半分』出版記念パーティ祝辞)

遠藤 周作

さきほど、この会場に少し遅れてまいりましたら、テレビのカメラがネラン神父を囲んで、追いかけて写しているんですナー。私は、ネランより自分がかなり有名な男だと思っていたけど。(笑)今日から私より有名な人間になってしまった。(爆笑)
あそこに毎日新聞が、ネランさんがわざと置いたのかどうか知らないが、自分の写真が大きく載った新聞が放り出してある。
「大変な人気ですね」と彼に言ったら、これで本がだいぶ売れるだろうと言う。版元である講談社の出版部長が、これで売れますねという。ついでに私の「おバカさん」も売ってもらいたいけど、本家本元の方。(場内大爆笑)
私は序文を書かせてもらいました。ネラン神父はジョン・ウェインと、私の「おバカさんに出てくる主人公は、バカでひょろりとしとって、このようないた偉丈夫と全く違うので、それで彼がモデルであるというと、みなさん驚かれる思うのですが、これは事実と現実が違うようなものなので、私の小説家としての、天才的な才能が彼をしかるべく変容させたのであります。(笑)
しかし、序文に書いたとおり、本質的な問題------私の主人公はキリスト教に対する信仰が非常にありました。それはネラン神父の信仰を借りてきて、書いたもの。本質的に違いないんです。
そして、あの本を私は読みました。で、みなさんお読みになった方はお気付きでしょうけれども、あれは日本語で彼自身が書いたんですね、すばらしいです。しかし、私より文章がへただ。(爆笑)どこがへたかというとですね、質問型が多過ぎるんですな。「君はそう思わないか」。たとえば、女子学生がですね、歌舞伎町というようなところへ神父が店を開いたら「いけない」と言った。しかし「神父が開いて、なぜ悪いのか。君はそう思わないか」。思うと言わなくちゃ叱られるんですよネ。(笑)思わないと言えば、あの月がもうこんなに大きくなってバカ呼ばわりする。
そして、あの本にもう一つですね、自分に都合のいいようなことも書いてある。酒を飲まなければ日本人は本音が出ない、って言うの、そうじゃないんだ。彼は自分が酒を好きだから、そう思っているんだ。そうじゃないですか。(笑)
さきほど、ネラン神父はぼくに言いました。「こういう素晴らしい会に普通は奥さんが来るけど、ぼくは一人だょ」。しかし、ネランは奥さんがいるじゃない・日本人という奥さんがいるわけだ。彼は日本人と結婚したんだ。日本と結婚したんだ。日本と一生涯生きていく人なんですね。(拍手)
私はたびたび彼と酒を飲んでですね、けんかしたんです。あんまり彼が酒に強いんで、私は肝臓を悪くしちゃって、もうエポペに行けなくなってしまった。(笑)私が身体悪くなったのは、あの人のせいなんだよ。(爆笑)しかし私がですネ、彼に言われたこと、これも序文に書きましたけれど、お前さんはいつか東京のいちば〜ん汚いようななかで、キリストが現れる小説書いてみないか。彼は歌舞伎町のなかで店を開きました。歌舞伎町は、別に汚いとかなんとかいうわけじゃないんですが、あすこには、人間の汚れ、悲しみが充満しています。お酒を飲みに行く人のなかに、汚れ、悲しみ、そして、よろこびもあるけれども------。
今までの修道院というのは、かっこいいところへ、また、きれいなところへ修道院をつくり、そこで聖職者たちが生きていた時代が昔ありました。
ネラン神父は日本へ来て、そして歌舞伎町というドロドロしたなかで、人間の心の奥底のいちばんドロドロしたたなかで、そこでエポペをつくった。
私は思うんです。キリストが働くのは人間のいちばんドロドロしたとこだと。それをネラン神父は身を持って実践した。彼の信仰が生きた信仰だという風に私は序文で書きましたけど、私はその通りだと思っています。
数年前、あの、さきほどお名前がでました百瀬さんたちが、ネラン神父のために集まりをやってですね、そして、その時私は生涯忘れられない感動的な光景をみた。
されは、さきほど電話した兄さん、兄さんの奥さん、私も留学時代たびたびお世話になりました。その御夫婦をですね、外国から呼んで、ネラン神父を後ろに向かせて突然会わせた。
ああいうやさしさ、日本人のやさしそっていうのは、私は久しぶりに見てとってもうれしかった。ネラン神父もそれを知っていると思います。ネラン神父は日本人と結婚したけれども、日本人の優しさは非常に知っている人です。私はエポペへあんまり行けないけれども、どうか皆さん、私の友人であり、私のモデルである、ネラン神父をいつまでもいつまでも大切にしてやってください。(拍手)
そして、おバカさんの面白半分ではなくて、面白いおバカさんの本をぜひ読んで下さい。どうもありがとうございました。

【参考】●「おバカさんの自叙伝半分」が大反響●

G・ネラン神父は遠藤周作薯「おバカさん」のモデルでもある。一九八八年二月二十八日、自らの著書「おバカさんの自叙伝半分」が講談社から出版され、あわせて来日三十五周年を記念するパーティが、京王プラザホテルで開催された。多くの友人・教え子・教会関係者が集まり、お祝いを述べた。

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