ジョルジュ・ネラン神父の非公式サイト

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巡礼の旅から

見田 栄征

『君たちは、今日の三島の事件どう思いますか?』
突然ドアを開けて現れた、パイプを口に咥えた、ダンディーなフランス人の大男。
―――それが、ネラン神父との最初の出会いであった
時は今から半世紀前。場所は、古い真生会館の司祭館の一室。
その日、数時間前に三島はすぐそこの市谷の自衛隊で割腹自殺をとげていた。
それから二年後の冬には、私は受洗したのだから、人生での一番重要な、人との出会いの瞬間であった。
私たちが、当時、指導司祭である海老原神父の部屋を訪ねると、何故か、ネラン神父が必ず顔を出すのだった。
その頃私は、部の再建に成功して80名を超す部員を有する早稲田のカト研の委員長で、先輩が解散させた東京カト学連と日本カト学連の再建を担わされていた。
学生運動真っ最中のころで、各大学のカト研自体存続が危ぶまれた状態の時代だった。
学連の再建がネラン神父の意思であったことを、随分とあとになって私は聞かされることになる。

一年後、東京カト学連の再建目途が立ったと思われた時、事態は急展開する。
指導司祭だった海老原神父が突然、個人的理由により神父をおやめになった。
そのこと自体衝撃だったけれど、なにより学連再建運動の中心人物のリタイア。
東京カト学連の再建は、一瞬にして、水疱にきした。
激怒するネラン神父。
確か、当時50歳だったと思う。

四年生になり、部を後輩に引き継ぎ、学連の仕事もなくなった私を、ネラン神父は、当時社会人を対象とした神学の学習会Ωゼミに誘ってくださった。
Ωゼミは、学生は私一人で、高校教師の女性、東大物理の助手、ニュース映画社のカメラマン等々ユニークな社会人の集まりで、随分楽しかった。
神学自体は、海老原神父や日本での第一号の神学者竹山神父が週一で早稲田にきていただいて、夏休みには個人的に上石神井の神学校で講義を受けた。
学生のいない神学校は静けさが深く、心が洗われる思いがしたことを覚えている。

肝心なΩゼミの内容は、記憶がない。
それでも、その年のクリスマスには、ネラン神父のもとで受洗した。
『疲れたら、やすめばいいんです。そして、また歩き始めればいい』
という佐伯さんの言葉に励まされて―――
佐伯さんには、残念ながら前年亡くなられたが、代父をしていただき、洗礼名まで付けていただいた。
そのうえ、受洗のお祝いに、ヨハネ二十三世『わが祈りの日々』をいただいた。

年が明けて、ネラン神父と二人きりで、九州の旅にでることになる。
勿論、学生の私には金はなく、費用のほとんどはネラン神父に出していただいた。
新幹線と特急を乗り継ぎ、熊本まで行きそこからレンタカーで阿蘇山を通って別府温泉へ。
互いの運転を信じない二人は、一時間おきに、運転の交代を申し出る。
温泉好きなネラン神父は上機嫌。
でも、大浴場では、絶対に日本語を話さない。
周りの湯客が、珍しがってネラン神父のことを私に聞いてくるのだが、何食わぬ顔でしらんぷり。
高千穂を巡って鹿児島市内に入ったのが日曜日。
カトリック教会の祭壇を借りて二人だけのミサ。
その後、指宿でまた温泉に泊まって、熊本で車を捨てて、博多へ。
博多駅で、タクシーに乗って、今夜泊まれるところの案内を頼む。
すると、運転手は何を勘違いしたのか、どこかいかがわしそうな日本宿の前で止める。
タクシー代金払って、二人で走って逃げだし、互いの顔を見合わせて、大笑い。
その日は、結局ホテルに泊まったので、大きな風呂に入れなくて、がっくりするネラン神父。
遠藤に知られたら小説のネタにされそうな珍道中は、今も昨日の事のように思い出される。

卒業して、故郷の新潟に帰る私に、ネラン神父は二つのことを約束させる。
一つは、新潟にいる同じ修道会のアンリ神父のもとにいくこと。
もう一つは、隠れキリシタンにならないこと。
新潟に帰った私は、真生会館の理事長をやめて上野毛の修道院におられたネラン神父をたびたび尋ねる。
時には、早稲田の後輩を連れて、黙想会を開くことも、度々。
ネラン神父は神父で、私が結婚するといえば、結婚式を取り仕切るといって、大騒ぎ。
私が、高田(現在、新潟県上越市)に転勤すると、東京から単身、レンタカ―で会いにきたり。

***

今、ランスからパリ、パリからユーロスターでバルセロナを巡る巡礼の旅にきています。
ランスでは、フジタの礼拝堂に行き、バルセロナではガゥディの教会を巡り、彼らが、『なぜ、キリストを信じたか』を知りたい一心で。

今朝、サン・フェリペ・ネリ教会でミサに与かりました。
これからも、あなたのこと、周りに少しずつでも、語っていこうと思います。
いつか、巡礼の旅の終わりに天国でお会いして、はなしたいものです。

『隠れキリシタンではありませんでしたよ』

2018年6月12日 バルセロナ空港にて

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